2022/12/04
この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2022」の4日目の記事として書いてます。
個人サークル「コップレジェンド」の中の人、翠丸です。
今年は「精霊回路ドライヴCtrl-Z/ゼロ」を完成させ、
2018年ゲムマ大阪以来の実に5年振りとなるゲムマ参加…となるハズでしたが、
今年のゲムマ大阪が幻となったのはご存知の通り。
そんなデビューに大失敗した精霊回路ドライヴゼロですが、
本作の一つの特徴として挙げられるのが、
ゲームの基本セットに加えて拡張セット7種類、さらにそれらを纏めたセットのボックスとで、
“全9商品”が同時発売という、前代未聞の構成となっています。
5年振りにゲーム制作したら、なんでそんなことになったか、というお話です。
まず精霊回路ドライヴシリーズの流れから。
同作は2014年の秋ゲムマで初登場しました。
これがいわゆる【無印版】です。
2017年までに
「夜天術式」「神代復古」「全神全零」「鬼承天結」
の4つの拡張セットを出しました。
その後の2018年に、イエローサブマリンのお店で知られるホビーベースさんから
商業作品としての「精霊回路ドライヴEXE」が発売。
これがいわゆる【EXE版】です。
EXE版は無印版の基本セットを基にしたセットで、
この流れで商業作品でも拡張を展開していくだろうと思い、
同人の無印版全商品の流通を止めて絶版とし、無印版の拡張+新カードのデータを調整・整備していました。
今思えばこの頃は時間的余裕はたっぷりありました。
同年後半には子供が産まれて、さらに2020年には二人目が産まれ、
ゲーム制作どころか遊ぶ時間も無いほどに子育てに追われる日々。
そして時は2021年。
気付けばEXE版が出て3年が経つも、
なかなか拡張セットのゴーサインは出ず、商業の世界の厳しさを思い知る一方で、
EXE版を遊んだ人が、無印版の拡張セットを追加して遊ぶ(非推奨)という需要が出たためなのか、
絶版にした無印版の拡張セット各種にやたらプレミアが付く事態に。
中古市場でどれだけプレミアが付いたとて作者に1ミリも還元される訳もなく、
むしろ本来の価値とかけ離れた高値で買わないといけないユーザーに申し訳ないという罪悪感、
そしてそこに需要があるのに応えられてないもどかしさ。
「もう拡張セット全部含めてを同人でセルフリメイクするっきゃない!」
と突然の一念発起。
2021年夏のことでした。
幸いゲームのベースは確立されているので、
ゼロベースでゲームを作るのに比べると既に半分以上の工程はクリアしている状態。
(※そんなことなかった)
しかし、実際に商品として作るには大きな問題がありました。
EXE版後の最新のデータではカード枚数だけでも200枚~300枚というボリュームとなり、
付属のチップ類やそれらを収納できる箱なども考慮すると、想定流通価格は1万円前後。
いやいや、同人作品で1個1万円前後はあまりに無謀!
商業作品では1万円を超える作品も増えてきたとはいえ、
それでもやっぱり5000円前後の価格帯と比べるとおいそれとは手が出せるものではないし、
それが同人作品となると尚更のこと。
少数限定のハンドメイド作品ならまだしも、何百部以上も作った場合の原価からの逆算でこの想定流通価格。
現実は非情である。
ということで、この問題を解決すべくひねり出したのが
「基本セットと複数の拡張セットに分割して1アイテムあたりの値段を抑える」案。
いきなり諭吉に殉職を強いることなく、2000円台で取り合えず基本セットが遊んでもらうことができ、
それで気に入れば小出しで拡張セットを追加していけばお財布にも優しい!
納得のWin-Winアイデア。
ええやんええやん!(心の中のザコシショウ)
そんな訳で、基本セット+複数拡張セットの一斉商品展開という前代未聞の路線が爆誕しました。
(※この時点で基本と拡張で6個程度にすることは考えていますが、実際に何個にするかまだ確定してませんでそた。実際は拡張7個になりましたが、ここらの詳細は後述)
「いや、いきなりそうはならんやろ」
いくらこんな状況とはいえ、
内容物をより分けてしかも6商品以上に分割するなんて手段に振り切る?
他のもっと効率的というか現実的な路線を模索すべきでない?
しかし、ある2つの要素により、この選択を取りうる土壌が出来ていました。
その要素1つ目。
一つのゲームを製作途中で分割するという手段自体は、実は今作が初めてではありません。
前々作の勇者アーキテクト2BRの制作時に
今回以上に膨大なボリュームと原価問題に直面して、
苦肉の策として「勇者アーキテクト2B」「勇者アーキテクト2R」という2作品に分割するという手段を取りました。
そういう点では「前にもやったあの手を今回も」といった所です。
ちょっと余談になりますが、
2分割という最小単位に分けた勇者アーキテクト2BRに対して、
結果的に7分割した精霊回路ドライヴゼロでは、精霊回路ドライヴゼロの方が大変のように思えますが、実のところは逆でした。
勇者アーキテクト2は2分割だけどカード150枚超がそれぞれがほぼユニークな構成でかつ単独で遊べる、
ある意味そっちの方が頭おかしいレベルでの分割でした。
実際ボリュームがすごくて色々作業的に大変でした。
当時の大変さを思えば、精霊回路ドライヴゼロの分割が6個以上になるとしても、
あくまで基本セットに対する単純な追加のカードセットであり、
カードも20枚~30枚前後の小刻みな分割であれば、
勇者アーキテクト2のときの大変さほどではないだろうという見込みもありました。
そして要素2つ目。
実は、拡張セットに分割する案を考える前、あくまで1つの作品として出す構想の段階で、
ボックス内部の細かい仕切りの代わりとして、
キャラメル箱を使ってカードをカテゴリーごとに分けて収納するというアイデアを検討していました。
この入れ子構造にしてキャラメル箱で中身を分割するアイデアは、
そのまま個別の拡張セットという形に落とし込む(むしろ本来のキャラメル箱の使い方)
ことが出来るできたというのも、作品を分割するという手段を選択する大きな助けになりました。
とはいえ、本当にこの分割の手段が物理的に実現可能か、原価的に問題ない展開ができるか、
などの検証が必要で、
そのためにも具体的な数値のあたりを詰めていきます。
まず物理的な部分の検証。
親となる文庫本サイズのボックスに全てを「きれいに」収納できるように、拡張セットのキャラメル箱のサイズ、向きなどいろいろ計算・検討しました。
安価な規定サイズのキャラメル箱を使う選択肢もありましたが、
それだとスリーブを使うと箱に入らなくなるため、早い段階で選択肢から外しました。
精霊回路ドライヴゼロはドイツ・ヨーロッパのボドゲの文脈でなく、
TCG寄りのゲームであり、TCGユーザーはスリーブを使う可能性が高い。
つまり収納というユーザビリティを考える上でスリーブが入るサイズの箱は大前提。
なのでスリーブに入れたカードが箱の内寸何センチで何枚入るか、
など内外両方を要素も含めて色々なパターンで計算しつつ、
ミリ単位でキャラメル箱の設計しました。
その結果、ボックス内でキャラメル箱をいくつ納めるか(=拡張セットの数)、
そしてキャラメル箱1個あたりに入れるカード枚数の目安(=拡張セットに収録する枚数)
などが定まりました。
この物理的設計で、拡張セットの数が7個、ひと拡張あたり20枚前後という構成が固まります。
この構成でカードと各箱の印刷費などの原価を計算。
現実可能なラインが見えてきたので、このまま分割路線で進めることになります。
分割路線で固まったら、次は拡張セットごとにカードの収録構成を決めます。
が、基本セットと別に拡張6個×20枚前後となると、
2018年段階で作成していたカードセットでは枚数が足りなくなるため、
さらに新カード追加のネタ出しとテストを行うフェイズが挟まりましたが、
それはまた別の話。
カード追加を調整しつつ、カード構成も検討していきます。
拡張のナンバリングの数字が小さい順に購入・追加して遊ぶことを考慮しつつ、
拡張1~4は無印版の拡張1~4をベースとし、
5~7は主に新規カード・新ルールからなる構成に。
旧作の無印版とイコールにならないよう拡張1~4にも新規カードを追加しつつ、拡張ごとの枚数・バランス調整をしていきます。
ある程度の収録内容が固まってきたら、各拡張セットの顔となるカード類のイラスト発注も平行して進めます。
イラスト発注は10名以上のイラストレーターの方々に交渉・依頼を行ったので、
スケジュール調整や進捗の管理なども大変でしたが、その話は今回は割愛。
大体2~3カ月ほどで、新カードや発注したイラストなどデータがある程度揃ってくると、
各印刷所に相談したり見積もり出してもらったりしつつ、印刷用のデータを作成して発注をかけていきます。
今回分割という手段を取ったことはここでも影響があり、拡張セット複数分のデザインも増え、
またややこしいことにキャラメル箱・文庫本ボックス・カード・説明書など部品単位で
それぞれ別の印刷所様に発注したりと面倒なことになってますが、
この話だけでも長くなるので割愛。
そして年が明けた2022年初頭には順次印刷物が仕上がって、いよいよゲーム制作も大詰め。
肝心のカードもギリギリゲムマ大阪に間に合うタイミングで一部納品の目途が立ち、
生まれ変わった精霊回路ドライヴゼロを引っ提げて5年ぶりのゲムマに参戦!
……と思ったらゲムマ大阪中止というオチ。
ハイッ解散!
オチがキレイだったかどうかは別として、着地としては複雑骨折の重篤な状態に陥りましたが、
この前人未踏の8分割を実践した結果の、
メリットとデメリットを挙げて一応の終わりとしたいと思います。
■分割して良かったこと(メリット)
・多分売れてる
多分売れてる、という曖昧な表現になってしまうのは、
分割しなかった場合というのはIFの話になってしまい、純粋に比較ができないためです。
それでも根拠が無い訳ではありません。
それは、CEO-BOXという基本+全拡張のフルセットパッケージの存在です。
値段は1万25000円、それを通販限定で販売して、200部売り切るのに4カ月かかりました。
それも前半の2カ月で9割以上が売れ、残りの1割弱に2カ月かかり鈍化が著しかったです。
旬なうちに熱心なユーザーが買い支えてくれたと見るのが妥当でしょう。
CEO-BOXの部数を増やして継続して販売していたとしても、
この流れでは厳しかったでしょう。
それに比べると、単体で展開している各委託・通販は
9カ月経った現在もある程度コンスタントに出ているので、
手を出しやすい価格構成にしたこと、つまり分割したことに一定の効果があったと考えます。
■分割して悪かったこと(デメリット)
・管理が大変
1商品を8商品に分割することで、ボリュームの面ではあまり変わらずとも、
商品として管理するには手間が増えます。
通販など販売面も、物理的な在庫管理も、そしてまだやってませんが棚卸とかも。
ただ、単純に8倍とかではなく、1.5~2倍くらいのものかなとは思います。
デメリットで挙げてますが、次項よりは軽微な問題です。
・売れる商品の偏り
基本セット+拡張セットで展開している作品は避けて通れない話だと思いますが、
基本セットの売れ行きが一番良く、拡張セットの売れ行きはどうしてもその何割かに限られます。
つまり拡張セットが余りがちになります。
通常であれば初版の段階から拡張の印刷部数を少なめにしてコントロールすべきですが、
今回は諸事情により全部同部数を印刷しているので、この問題にモロに直面する流れになってます。
基本セットの在庫が尽きたとき、余っている拡張セットの大半は不良在庫化してしまうので、
それを諦めるか、基本セットを再販するか、悩むところです。
単体作品であれば単純にそれ自体の再販だけで考えればいい話ですが、
拡張セットの在庫もにらみつつの再販検討というのはリスクも複雑で判断が難しいです。
分割というより、拡張セットのデメリットでもあるかもしれませんが。
ということで、精霊回路ドライヴゼロが本体+拡張7種に分割された話でした。
ボリュームがある同人作品は制作過程において数多の問題を壁が立ちはだかり大変ですが、
今回の記事が何かの参考になり、また新たな作品が生まれる一助になれば幸いです。
それでは、良いゲームライフを。