2023/12/03
この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2023」の3日目の記事として書いてます。
個人サークル「コップレジェンド」の中の人、翠丸です。
もうすぐ開催のゲームマーケット2023秋に、出展はしないんですが
委託&通販で精霊回路ドライヴCtrl-Z/ゼロの新拡張セットを出します。
精霊回路ドライヴゼロはレガシーゲームではないのですが、
その新拡張セットに収録の一部コンテンツにはレガシー要素が含まれていまして、
今回はそのレガシー要素に至った経緯など書いてみたいと思います。
※注意その1
レガシーゲームの作り方の話ではないです。
レガシーのつもりじゃなかったのにレガシーになってしまった話です。
※注意その2
レガシー要素のネタバレになる部分は伏字だったり表現がぼかしてあったりします。ご容赦ください。
正直なところ、私はレガシー系ゲームをほとんど遊んだことがありません。
レガシー系は基本的に同じメンツで何度も繰り返し遊ぶことで進行するものがほとんどですが、
仕事柄、週末の土日でも出勤が多く、月イチのゲーム会以外で土日に誰かと遊ぶ機会を非常に作りにくいのです。
かといってオープンなゲーム会でレガシー系を遊ぶのも気が引けます。
ということで
「レガシー系はこういうもの」
みたいなのは経験を踏まえてというよりあくまでイメージに近いものがあるので、
もしかしたら間違ってるかもしれません。
違ってたらすいません。
閑話休題。
ボードゲームにおけるレガシーを構成する要素とはどんなものがあるか考えてみたところ、
以下の2つが挙げられるのではないかと思います。
・カードを破る、ボードにシールを貼る、内容物が追加されるなど、プレイの結果が不可逆な内容物・ルールの変化を伴うもの
・物語りや謎解きなど、前知識の無い一度きりの体験を提供するもの
前者がいうなれば物理的なレイヤー、後者が感情的なレイヤーという感じの分類です。
実際にゲームを見てみると、
主に前者の要素で成立しているゲーム(ゾンビキッズなど)
後者の要素だけで成立しているゲーム(アンロック、タイムストーリーズなど)
両方の要素を持ったゲーム(パンデミックレガシ―など)
みたいに分けられるかな。
まぁ分類の話は今回あまり関係ないです。
レガシー要素とはこういうものという前提の話でした。
あと知らないだけでもっとレガシー要素あるかもしれませんね。
上に上げたゲーム例もレガシーゲームとしては古い方で、
最近のレガシーになるともっと凄い何かがあったりするのかも?
ここら辺、遊んでないと分からないのがつらみ。
そんなこんなで本題へ。
レガシーの話として今回の核となるのが、
拡張8「天剣」でプレイすることのできるゲームモード「終極決戦モード」です。
このレガシー要素を持つモードが誕生した経緯、
その始まりは昨年作った精霊回路ドライヴゼロの仕様にありました。
2022年に制作した精霊回路ドライヴゼロは
基本セット、拡張セット6種類、それらを全て収納できる拡張セット「レイドボックス」
の8製品から構成されます。
もともとは絶版で中古がプレ値になっていた無印同人版復刻の意味でのリブート、
それが目的の精霊回路ドライヴゼロだったので、
これ以上の拡張セットを作る構想は当初ありませんでした。
それが、やり残しのギミックを拡張で追加しようかなと今年の春先あたりに思い立ったときに
ある問題にぶち当たりました。
レイドボックスに基本と拡張1~6がキッチリ全部収まるという構造は、
裏を返せば「これ以上は拡張セットが入らない」という枷にもなってしまったのです。
入らないものは仕方ない、レイドボックスとは別に小箱をセットで持ち歩くしかない。
と諦めるのは簡単ですが、
せっかくキッチリ収まるレイドボックスを設計したぐらいなんだから、なんとか新拡張も収めたい。
となると、カードはボックス内の空きスペースでなんとか収まるとして、
小箱は立体的な状態での収納は無理。
折りたたんで平面状態にするしかない。
しかし収納するためだけに箱を折りたたむんだったら、
結局は箱だけボックスに収納しなければいんじゃないか、というスタートに戻ります。
実際に市販のボドゲで、本体の箱に拡張セットの中身を移して拡張セットの空箱だけ余った、
なんてことはボドゲあるある。
ただその空箱の扱いには困るとこまでがワンセットなので、
やはり何かしら解決策を見出したい。
「……箱を切るか」
これがレガシーへの第一歩でした。
拡張セットの小箱を切って、その内部にコンテンツがあるのなら、
単に収納のためだけではなく、ゲームを遊ぶ流れの中で箱を平面状態にすることを必然にできる。
非常に合理的。
しかし、この時点ではまだレガシー系という意識はありませんでした。
先のレガシー系の分類の話で言えば箱の解体は物理的なレガシー要素ではあるけど、
収納のために動的に解体してもうらうにはあまり秘密秘密してない方がいいし、
なんなら「箱の内側には特殊なカードが収録されてます」って最初から存在を公にして、
特殊なコンポーネントの一部という、ただのカードの延長線程度に考えていたのです。
あと、正直なところ箱を解体してそこに新しい要素が出てきたところで、
その限られた情報量でレガシー系と果たして言えるのか、という疑問もありました。
あくまで箱を解体させることが目的であって、
そこにレガシーとしての付加価値を持たせるのは無理。
そもそもレガシー系ほぼ遊んでないのに何でレガシー系が作れようか。
この時はそう思ってました。
それはそれ、レガシーなんて思考は捨てて、
箱内部を使ってどういったコンテンツを作るかが次の問題。
折角通常のカードの2倍ほどの面積があるので
何か変わったことが出来ればとあれやこれや考えたんですが、
そこら辺はめっちゃ長くなるし、今回のとはまた別の話。
というかこの先はいよいよレガシーの中身に触れざるを得ないので話しにくい…。
話せる範囲で言えば、
特殊なサイズの活かして専用のゲームモードを作ることは初期段階から確定路線。
で、色々ある検討すべきうちの一つに、
「何をするにしてもランダマイザをどうするか」という問題がありました。
ランダマイザ、つまりゲームに振れ幅をもたせる乱数発生装置です。
例えば既に搭載済みのレイドモードでは
ボスラッシュモードでボスカード、ギアスラッシュではギアスカードと通常敵カードといった具合に、
各種ある敵側のカードを山札にしてランダマイザ機能で活用しました。
(ラストバトルモードはソロ専用で、敵のスキル的にも何度も遊ぶものではないという判断でランダマイザ無しになってます)
敵のシステムに敵カードを使うのは自然流れだしステータスも含めて難なく組み込める。
けどもう既存のレイドモードで敵カード一式を使っちゃってる。
ランダマイザのために新たにカードを作るか、それとも既存の内容物で
新たにランダマイザを構築できるか…。
悩んだ末に白羽の矢が刺さったのが■■カードでした。
過去に無印同人版で■■カードを使うボスカードは作ってましたが、
あれはやり方がちょっとマズく、事故を起こしやすい使い方だったという反省も踏まえて、
あれこれ試行錯誤した結果、
「■■カードを使うのは本来■■■■■。であれば■■■■■の■■を行うボス、というのはどうだろう」
伏字も出てきて、これ以降はもう黒塗りレベルになってくるので
中身についてはほぼ触れません。
ここからは先は割と急転直下で、
いくつもの発想が降りてきてはストンと収まるべくして収まり、
バラバラだったパズルのピースが一つの絵として完成するように
新たなモードの骨格がトントン拍子で組みあがっていきました。
(肉付けにはまたここから先いくつもの作業がありましたが割愛)
骨格を組み上げながら、
「これがこのゲームの最後になる」
という実感とともに
「間違いなくレガシーですやん!」
と確信しました。
レガシー系ゆえに中身に触れられずふわっとした物言いしかできませんが、
ゲームのシステムから物語が浮かび上がるようで、
冒頭のレガシーの分類で言えば後者の、一度きりの体験を提供するもの。
それがいつの間にか目の前にあったのです。
これまでゲームを作っていて、こんな不思議な体験は初めてでした。
この終極決戦モードのために9年前から精霊回路ドライヴを作ったとさえ思いました。
作者本人だからそんな訳がないことは百も承知ですが、
それだけこの言葉にできない「精霊回路ドライヴのような“何か”を作った」という
異質な状況に高揚感を覚えていました。
レガシー系を意識してからは、骨格が出来てきたとはいえ新たな苦難の連続でした。
そもそもレガシー系に対する知識がほぼ無いので、
レガシーとしてのありやなしや、処理の流れなど参考にできるものが無い。
例えば「負けイベント」。
プレイヤーが負けることを前提としたこの類のイベントはデジタルゲームではたまに見ますが、
普通に考えてアナログゲームではありえないし見たことも聞いたこともないけど、
協力系レガシーゲームならそういうのがあってもおかしくはないし、実際あるのでは?
というか実例とその処理を知りたい。
でもレガシー系。
探しても詳細な情報が何も出てこない。
そういったところで何度も足踏みしましたが、
悩んでも調べてもダメならもう「俺がレガシーだ」みたいに割り切るしかない。
「負けイベント」が過去のボドゲに存在しないのなら
精霊回路ドライヴゼロがボドゲ史上初の「負けイベント」搭載ゲームになる!
それでいっか、と。
そうでなくても精霊回路ドライヴのカード構成だから実現できた
ルール・カードのアレとかは間違いなく唯一無二だと胸を張って言えます。
…既存でやってるゲームがあったら本当にすいません。
初レガシーで様々な障害をなんとか乗り越えて出来たこの終極決戦モードですが、
どうやっても越えられない壁みたいなものはありました。
本来レガシー系は(謎解きやストーリーメインのものは除く)
何度も繰り返し遊ぶことで変化を積み上げ、その過程をもって物語として成立するもの。
精霊回路ドライヴはそもそもレガシーゲームではなく、
積み上げた変化の過程というものもそもそも想定も何も無いのですが、
だからこそ「どれだけ精霊回路ドライヴ(ゼロを含むシリーズ)を遊んだか」という
プレイヤーの経験値が何より大事で、
そこはプレイする人に大きく依存する形にはなってしまいます。
ここはゲームシステムではどうやっても埋められない。
アニメの最終回やゲームのラスボス戦でOP曲が流れてテンション上がるのも、
1クールアニメなら11話分の物語の積み上げがあってこそ。
その11話分をプレイヤー自身で積み上げてもらう必要があります。
それがプレイ回数にして何回とかいう数量化は出来ないんですが、
でもしっかり遊んでくれてる人であればエモさMAXなプレイ体験ができるハズです。
そんなゲームが出来ました。
箱を収納するためという取って付けたような理由からスタートして、
まさかこんなレガシーな着地点に辿り着くとは夢にも思わなかった今回のゲーム制作。
そしてこの話に一本筋がある訳でもなく、結論がある訳でもなく、参考になるでもない、
スペースオペラの主役になれない、そんなぐだぐだな話になってしまいましたが、
最後に、レガシー系を作ってこれだけは声を大にして言いたいことがあります。
「告知・宣伝がめっちゃしにくい!」
それでは、良いゲームライフを。